人生は折り返して元の姿に戻る(MGさん/50代女性)
母のわがままが始まる
入院から1週間ほど経った頃から、母のわがままが始まりました。
それが認知症の症状なのか、母の性格なのかはわかりません。体調が良くなってきたので退屈していたのかもしれません。
または、母が、病院に対し、介護施設とおなじことを求めていたのかもしれません。
当然、病院と介護施設は雰囲気も違います。看護師と介護スタッフの違い、患者さんと利用者さんの違いもあります。
母は、その違いを、とても大きく感じていたのではないかと思います。
母がわがままを言うたび、病院から電話がありました。
その内容は、「娘はまだ来ないのか?電話してすぐ来るように言って!」「なぜ私はここにいるのか?!」「もう帰りたい!なぜ帰れないの?」 そのようなことを繰り返すそうです。
「まだ完全に治ってないし、歩くのも不安でしょう?しっかり治して退院しないとね」と説得すると、「ちゃんと歩ける!トイレも自分でいける!」と次々に反抗します。
母と同じくらい会話ができる人と一緒の病室になれば、少しは違うかもしれないと思い、病院側にお願いしたこともありました。
また、ひどい時は、私が病院から帰宅したばかりの時に「“娘はいつ来る?娘に電話する”と言い続けていらっしゃいますのでお母さんに変わりますね」と看護師さんから電話を受けたことがあります。
母「いつ来る?」
私「お母さん、さっき行って話したよね?」
母「(覚えていたかのように)そうだけど、今度はいつ来る?」
私「明日、また行くからね。心配しないでゆっくり眠ってね」
母「わかった。なら明日ね。」
受話器を看護師さんに渡す時、「明日来るって!」と嬉しそうに言っている母の声が聞こえました。
寂しかったのだと思います。まるで幼稚園児との会話のようでした。
筋力の衰え
母は少しずつリハビリをはじめたと聞いたので、母の足をそっとベッドから降ろし、足をブラブラさせて、恐る恐る立たせてみました。
ゆっくり膝を上に動かすと、左足は上がりますが右足はピクリとも動きません。
母は、恐怖心がいっぱいで「フラフラしてこわい。めまいがする」と言います。
どんなリハビリをしているのか看護師さんに確認すると、母の場合、まだ本格的なリハビリということではなく、歩行器を使って廊下を歩く練習をしているレベルとのことでした。
それを聞いて、私も、母の歩行訓練をしました。
片手に杖を持ち、片手で手すりを持ちながら、病室前の廊下をゆっくり往復しました。少しずつ歩く範囲を広げていき、歩行器を使ってエレベーターで1Fまで行くこともありました。
病院1Fには眺めがいいフロアがあります。イスに座って、お茶を飲みながら話したことがあります。
母にとっても、私にとっても楽しい時間でした。
認知症の症状
信じられない行動がありました。
母のものではないバックが、母のベッドの横にあったのです。更に、母は、見たこともないパジャマを着ていました。
新しく入院された方のバックを看護師さんが間違えて母のベッドに置いたのか?そのバックを母のものと思い、その中のパジャマを母に着せたのか?
疑問に思いながら、看護師さんにそのことを伝えました。
看護師さんの言葉に驚きました。
母が、となりのベッドから自分のベッドへ持っていったのだと思う、と言われたのです。
一人で、ちゃんと歩くことも出来ない状態でそんなことができるのだろうか・・しかもパジャマまで出して着替えるなんて・・
ケアマネジャーにそのことを相談すると、認知症の人は思いもよらないことをすることがあり、例えば骨折している人が、骨折のことを忘れて走ることもあるとのことでした。
やっぱり母が持っていったのか・・・。
そのバックはかなり大きく、バックの持ち主は入院されたばかりだったので、たくさん入っていて重かったはずです。引きずって持っていったのでしょうか・・今でも不思議です。
母のお風呂道具が見当たらなかったので、看護師さんに尋ねたところ、お風呂道具と着替えはナースステーションで預かっているとおっしゃいました。
その理由は、母が、失禁で濡れているのを自分でわかる時があるらしく、お風呂の準備をしているバックに汚物を入れてしまうためとのことでした。
介護制度のしくみ
初めてのことでよくわからなかったのですが、母の退院後の打ち合わせが行われました。
家族と、介護施設より(入所担当者、相談員、ケアマネジャー)病院側は(看護師責任者、担当看護師、リハビリ担当者)が病院に集まりました。
病院から介護施設へ、入院中の状況報告を行うための打ち合わせだったようです。
高齢者の退院時、自宅に帰る場合は良いのですが、介護施設にお世話になる場合は、医療保険から介護保険への切り替え(引継ぎ)が必要になるそうです。
高齢者の方の退院後の所在を明らかにしなければいけないようで、病院から介護施設に入院中の様子や薬などの手紙が渡されると聞きました。
介護制度はとても複雑です。
ケアマネジャーがお見舞いに来てくれて二人で話している時、大きな声が聞こえてきました。病院側と高齢のご夫婦がもめていたのです。奥様の退院についての話でした。
私は、ケアマネジャーに何でも相談し、言われるままに従っていたのですが、そのしくみをお年寄りだけで理解するのは難しいだろうと感じました。
そのご夫婦が誤解されていたようでしたが、それも仕方ないことだと思います。
母は、退院後、介護施設(一般入所)にお世話になることにしました。
一般入所は、3ヶ月まで継続可能とのことでしたが、母がどんな反応をするかわからなかったため、まずは1ヶ月でお願いしました。
しかし、介護施設での生活を、母がとても気に入った様子でしたので、最終的に利用可能期間の3ヶ月間お世話になりました。
退院
「食事も、一口サイズが問題なく食べられるようになり、血糖値も落ち着いてきたので、そろそろ退院許可がでると思います」と看護師さんから聞きました。
そして、5月中旬、無事に退院できました。
「桜が咲く前から、満開になって、散って葉桜になるまでずっと見ていたね。長かったね、がんばったね。」母と二人でそう話しました。
退院当日、帰宅する前にデイサービスに退院の報告に行きました。スタッフの人たちが、母の退院をとても喜んでくれて、一人一人、「元気になってよかった~」と母に言ってくださいました。
そして、私が入院していたことも覚えていらして「大変でしたね。体調は大丈夫ですか?」と声をかけてくださいました。
仲のいい利用者の方とも再会できて、嬉しそうに話していました。
こんなによくしてくれるから、母がデイサービスに行くことを楽しみにしているのは当然だと感じました。
泌尿器科受診~背骨が曲がることで尿を排出する機能が低下
退院時の医師の指示で、専門の泌尿器科を受診しました。
当然ながら尿検査があり、コップを持ってトイレに行きましたが、「出ない」と言い続け、15分ほどかかり、ようやくほんとにわずかな量を提出しました。
レントゲンを見ながら医師の説明を受けたのですが、あんなに出ないと言っていた母の膀胱には、たくさんの尿がたまっていました。
原因は膀胱壁がかたくなっていることもありますが、背骨が曲がっていて尿を排出する機能が低下しているということでした。古い尿が膀胱にたまることにより菌が増え、尿が濁っているそうです。
本人にはまったく残尿の意識ありませんでした。
抗生物質と尿を排泄しやすくなる薬を処方されました。その他、癌や石などの検査もしていただきましたが、その結果は問題ありませんでした。
85歳の母は、短い期間で次から次に病気と闘うことになります。