認知症の人の感情は残る
認知症の人の感情は残る
認知症の人の心は何に敏感なのか、何を強く感じているのか。あくまでも想像するしかないものですが、「認知症の人のつらい気持ちがわかる本」(杉山孝博氏著)から引用・参考にさせていただき、考えてみます。
認知症の人の感情は残る
認知症の人が強い物忘れ(記憶障害)があるのに、けんかしたことや責められたことなど、嫌な気持ちになったことをよく覚えていることがあると思います。
もちろん健常者でも同じことですが、日常的に物忘れが目立ってくる認知症の人にこの感情の記憶が残ることが、際立って見えることがあると思います。
杉山先生によると「感情残像の法則」と表現するようで、体験した出来事自体の記憶をなくしても、そのときの感情(嬉しかったこと、悲しかったこと)は時に強く残るというものです。いわば、感情が脳裏に焼き付けられるイメージでしょうか。
筆者の場合
筆者の父の場合もそうでした。認知症だと思って接し始めた頃は、症状だから仕方ないと思えていたのですが、何度も同じ事を聞かれ、言っていることがちぐはぐなのに偉そうな態度をとられ、意味不明な理由で急に怒ったりされると、周囲も人間ですので、つい反発してしまいます。
「ただでさえ本人に代わっていろいろなことを世話しているのに、これではやりきれない」と思ってしまいます。
そんなとき、けんかごしになったり本人を責めたりすると、その後からこちらのことを警戒したり最初からピリピリした空気になってしまいました。話をするときにはまず、本人の気持ちをほぐしてから始める必要が出てきて、余計にこちらの精神的な負担が増えてしまったようでした。
そして、いったん本人が警戒心や緊張感をもってしまうと、日を経てもなかなか元に戻らないのです。
筆者の対応が下手だったためそうなったのですが、筆者が「本人の感情を逆撫でしない」ことにもっと注意を向けていれば、本人の感情ももっと落ち着いて、こちらの世話もやりやすくなったかもしれません。
より感情に敏感になる
「物忘れが強いから、どんな態度をとっても忘れてしまうだろう」と思うのは、認知症初期の頃については大間違いのようです。
「年はとっても感情は老いていない」と杉山先生が表現するとおり、認知症の人は、より感情に敏感なようです。周囲の人の態度や語感から、自分を責めているのか守ってくれているのか、怒っているのか和やかなのか、敏感に感じとります。
これは防衛本能なのかもしれません。記憶力や判断力が低下しているからこそ、今までの人生で培ってきた感情というセンサーで、自分が安全なのかどうかを察知しているのかもしれません。
認知症の人は、感情が乱れると症状が悪化することがあります(認知症初期の接し方)。こちらが責めたり怒ったりすればするほど、作用・反作用の法則のように本人は反発し、怒り、不安になり、悲しくなり、さらに強い症状の坂を転げ落ちることがあるようです。
周囲の接し方
周囲の接し方としては、どんな話であっても本人の気持ちに同情し、共感し、褒めたり勇気付けたりすることが有効なことのようです。まずはそうして感情を落ち着かせることが、介護者・家族にとって世話しやすい状態を維持することにつながるでしょう。
しかしこれは、言うほどたやすいことではないでしょう。
本人の調子を見て対応するという意味で、例えば子育てと比べると、子供は少しずつ道理を覚えて成長し、手を離れていきますが、認知症の人の場合にはその逆です。
あまりにも苦しい状況になってきたら、全て抱え込まずに、できるだけ周囲に助けを求め、ケアマネージャーなどに相談することが大切です。