認知症本人の苦しみ
認知症本人の苦しみ
認知症によって記憶力・判断力・思考力が急速に失われていく。そんな本人の気持ちはどのようなものなのか。あくまでも想像でしかないかもしれませんが、「認知症の人のつらい気持ちがわかる本」(杉山孝博氏著)から引用・参考にさせていただき、考えてみます。
口に出さないからといって、様子が変わっていくことは本人にとって決して平気ではないはずです。このページでは認知症の比較的初期の頃の本人の気持ちを考えてみます。
日常で、何かが変だと思い始める
もの忘れ(記憶障害)は、認知症の代表的な症状でしょう。
- しまっておいたはずの物が見つからない
- 物を失くす
- 今何をしていたかを忘れる
- 同じことを何度も繰り返す
こういったことが増えてくると、本人はどうもこれまでと様子が違ってきている、何かが変だと思うようになりますが、それが年齢的なものなのか、疲れからくるものなのか、本人にとっては判然としません。
物事に集中できない、物覚えが悪くなる、ぼーっとする、「頭に蜘蛛の巣がはった」と表現する人もいるようです。
この頃は、まともな状態とそうでない状態が混在し、周りからもの忘れなどを指摘されても、本人が全力でカバーしようとすることも多く、周囲が症状に気づきにくい場合もあるようです。
自分ではどうにもならない能力の低下
記憶、認識、判断、学習、推理といった能力が低下してくると、日常生活において様々な障害が出てきます。例えば、以下のようなことです。
- 字が書けなくなる
- 計算ができなくなる
筆者の父もそうだったようですが、自分の名前(漢字)が書けなくなってくることがあります。書いてみても正しい字にならない、存在しない漢字になってしまう。やがて、全く字が思い出せなくなるのでしょう。
計算ができないことで言えば、例えばスーパーのレジにおいて108円の支払いしようとするが小銭の判別ができなくてもたついてしまい、つい1万円札ばかりで支払ってしまうなど、価格に応じたお金を用意することが困難になるケースもあるようです。また、
- 質問に答えようとしても言葉が出てこない(失語の状態)
- 人や物の名前が出てこない
- 相手の言っていることがよくわからない
など、本当は話したい・話して欲しいのに、それがうまくできないもどかしさ・悔しさ・不甲斐なさを感じるようです。
これらの能力の低下は、自分ではどうにもならない状態と言えるようです。
自分の知らないことでトラブルが増える
自分としては甘えたり怠けているわけではないのに、
- トラブルが増える
- 人に迷惑をかけているようだが、なぜかわからない
- なぜみんなが怒っているのかわからない
このような状態があるようです。
例えば、火の不始末を責められても、火を使っていたこと自体を忘れているので、何を責められているのかわからない。身に覚えのないことであり、何度同じことを言われても本人にとっては「初耳」と思うこともあるでしょう。
自分の能力が低下しているとは信じられない、信じたくない、と思ったり、周囲の人に馬鹿にされている、周囲の人がグルになって自分を特別扱いしているなどと感じて、怒りを覚えたり傷ついたりすることもあるようです。
自分が失われる恐怖
「自分がバラバラになってしまうようで、恐ろしいんだ」これは認知症だった筆者の父が言った言葉です。
症状が進行するにつれて、自分が自分でなくなってしまう恐怖と必死で闘っている。これが認知症本人の気持ちかもしれません。
- 自分はこれからどうなってしまうんだろう
- 何もわからなくなるのか
- 別な人間になってしまうのか
- みんなに忘れられてしまうのか
- このままで生きていけるのか
自分がイメージする今までの自分と現在の自分のギャップに苦しみ、焦り、苛立ちます。
健常者はある程度自分の先の状態が予想できるからこそ、安定して今を生きられると言えるようですが、認知症の本人はそうではありません。急速に失われていく能力の中で先の自分の状態が見えず、恐怖と不安の中にいるに違いありません。
わからない・できないと言いたくない(思いたくない)のに、自分ですることができず、耐え難い苦痛の中で介護を受けるしかない。そして、自分のせいで家族に迷惑をかけている、嫌われるかもしれないと思って、不安や恐怖を感じるているかもしれません。