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歯周病は認知症に影響する~早期の歯周病治療で認知症予防~

歯周病は認知症に影響する~早期の歯周病治療で認知症予防~

認知症は脳の病気でありながら、口の中の病気である歯周病との関連性が明らかになってきました。詳しく見ていきましょう。

成人の8割がかかっている歯周病

厚生労働省の調査によると、成人(30~64歳)の8割程度が歯周病にかかっているそうで、年齢が高いほど進行度も高いそうです。

成人だけでなく、学校の歯科検診で歯周病が見つかる子どもも増えているとのことで、もはや歯周病は日本人の国民病であると言えるようです。

歯周病は、歯と歯茎の間(歯周ポケット)に歯垢(プラーク)がたまって炎症を起こす感染症です。虫歯と違って、初期の段階では痛み等の症状がなくゆっくり進行するため、気がついた時にはかなり進行していて、歯を支える骨まで溶けて歯が抜けてしまうということもあるのです。

 

歯周病がアルツハイマー病を悪化させる原因となる?

認知症の人の脳では、炎症が起きていることがわかっています。

炎症とは体の防御反応のひとつであり、体の中に異物が入ったり、体の中で有害な物質が産出されたりした時に起きる反応です。

炎症にも色々なものがありますが、認知症と深い関係があると考えられている炎症は、慢性的に長期に継続する小さな炎症であり、まさに歯周病がその代表例です。

歯周病の菌や産出された物質が脳内に侵入することにより、炎症を起こしたりアルツハイマー病を悪化させたりしている可能性が指摘されています。

歯周病は、認知症だけでなく脳血管の病気や糖尿病、誤嚥性肺炎、骨粗しょう症等を引き起こす原因にもなるそうです。

早く歯周病を治療することが、認知症の予防・改善になる

歯周病の原因になる菌は約300種類もあるそうですが、それらの菌が「酪酸」という物質を産出して、認知症の大きな原因であるアルツハイマー病になるリスクを高めるという研究結果が発表されました(2017年5月27日の毎日新聞に掲載)。

その研究では、日本大学歯学部の落合特任教授らがラット(ドブネズミを改良した実験用のネズミ)による実験を行いましたが、国内では初めての動物の体内で検証した研究とのことです。

落合教授らは、歯周病の原因となる菌により作り出された酪酸が歯周細胞内に入り込むと、鉄や過酸化水素、遊離脂肪酸が多く産出されることにより歯周細胞が酸化して損傷を受けることに着目して、動物の脳への影響も調べました。健康な3匹のラットの歯肉に酪酸を注射し、6時間経過後、海馬と松果体、下垂体、大脳、小脳を調べて、酸化の程度を調べたのです。

その結果、酪酸を注射したラットの鉄、過酸化水素、遊離脂肪酸の濃度がいずれの部分でも35~83%も上昇していたそうで、これらが過剰に作り出されると、細胞に酸化ストレスを起こして壊してしまうようです。

特に海馬での上昇が著しく、鉄は79%、過酸化水素は83%、遊離脂肪酸は81%にも及んだとのことです。海馬は記憶を司る部分ですから、アルツハイマー病に重大な影響がある可能性があるとのこと。

さらに、細胞死を引き起こすたんぱく質分解酵素「カスパーゼ」の濃度は87%上昇し、アルツハイマー病の人の脳神経細胞の中では物質輸送に関わるたんぱく質「タウ」が異常に蓄積するようですが、この実験でその「タウ」の量も42%増加したそうです。

歯周病にかかると、健常な人の10~20倍もの酪酸が歯周ポケットから産出されるそうですから、若い時から歯周病にかかっている人では、かなりの長期間にわたって酪酸が脳に取り込まれ続けて、各部分を損傷させていることになります。

早い時期に歯周病の治療をすることが、認知症の予防や改善に直結すると言えるようです。

 

歯周病菌は体内を移動する

アルツハイマー病患者の脳から、歯周病菌が何種類も発見されたという報告もあります。

歯周病菌や毒素は、血液や神経系を介して脳をはじめ体の各部分へ移動するので、口腔以外の臓器の癌の中から歯周病菌が発見されたという報告もあります。

国立長寿医療研究センターの松下健二氏らは、歯周病菌だけが原因でアルツハイマー病が発症する可能性は少なく、認知機能障害の増強や進行の促進アルツハイマー病の発症時期を早める等の作用を及ぼしているのではないかと見ています。

松下健二氏らが行った研究は、アルツハイマー病モデルマウス(人工的にアルツハイマー病に罹らせたマウス)を実験的に歯周病に感染させた「感染群」と感染させていない「非感染群」に分けて行われました。

両者の脳の中の病態と認知機能を比較したところ、非感染群と比較して感染群ではアミロイドβの量が増加し、認知機能が低下していることが判明し、歯周病とアルツハイマー病の因果関係が明らかになったと結論づけています。(当サイトでは、認知症の直接の原因がアミロイドβであるという見解には疑問がありますが、研究者の間では関連性を肯定する考え方もあります)

 

歯が抜けて噛めなくなることが認知症のリスクを高める

歯周病により歯が抜けてしまい、充分に噛めなくなったことでアルツハイマー病のリスクが高くなるということも見逃がせません。

物を噛むことにより、脳が刺激を受けて活性化することは既に知られています。上下の歯を噛み合わせると、歯根にある歯根膜から脳へ刺激が伝わりますから、歯がなければ脳を刺激することはできません。

アルツハイマー型認知症の人では、歯が抜けてしまって、長期にわたってきちんと噛まずに食事をしていたと思われる人が多いそうです。

東北大学の研究により、健康な高齢者の歯が平均14.9本は残っているのに対し、認知症の人では9.4本しか残っていないことや、歯が多く失われている人ほど、脳の海馬や前頭葉が小さくなってしまっていることも明らかになっています。

たとえ入れ歯やインプラントの治療を受けていても、本人に合っていなければ、認知症になってしまうリスクは高いそうです。また、歯はあるのに噛むことを意識しないで、噛まずに済む柔らかい物ばかり食べている人も、脳への刺激が伝わらないため認知症になりやすいとされています。(参考:歯のケア・口腔ケアが認知症予防に

歯周病を予防する、或いは、罹ってしまってもしっかり治療して改善させることが、認知症の予防や進行の抑制につながることは確実であるようです。

命には直接関係がないような気がして、つい後回しにしてしまいがちですが、口の中の健康状態にも常に注意しておきたいものです。

 

 

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