症例1[同じことを何度も言う]

症例1[同じことを何度も言う]

認知症の実際の症例や体験談をいくつか紹介し、症例の原因や対応方法について考えてみます。ここでは、「同じことを何度も言う」状態について考えます。

症例1:同じことを何度も言う

症例

同じことを何度も言う症例として、以下のケースを紹介します。

(ここから「認知症「不可解な行動」には理由がある」佐藤眞一氏著 より 抜粋して引用)

Dさん(81歳・女性)は、団地で一人暮らしをしていて、団地の別棟に住む息子(59歳・会社員)と息子の妻(58歳・パート)のどちらかが、ほぼ毎日顔を出しています。Dさんは1年前に夫を亡くして元気がなくなっていましたが、最近ようやく元気を取り戻しました。しかし、ほっとしたのも束の間、今度はやたらに同じことばかり話すようになったのです。

最初は、「お米屋さんにお米を頼んでおいて」とか「資源ゴミを捨てておいて」などの頼み事を何度も繰り返すので、「おふくろも、くどいな」とか「ちゃんとやっておきました」と、2人はその都度答えていましたが、近頃はそれだけではありません。

先日は、「熱海の海岸に松があるんだよ。貫一お宮の松といってね」と言うので、「そうですか、熱海はいいところですね」と息子の妻が相づちを打つと、「熱海の海岸に松があるんだよ。貫一お宮の松といってね」ともう一度繰り返すのです。再び息子の妻が「ええ、有名ですね」と相づちを打つと、またしても「貫一お宮の松といってね、熱海の海岸に、貫一お宮の松といってね」と繰り返すので、「何回同じこと言うんだよ!」と、ついに息子が声を荒げてしまいました。

(ここまで「認知症「不可解な行動」には理由がある」佐藤眞一氏著 より 抜粋して引用)

原因

Dさんが同じことを繰り返して言った理由は、記銘力が衰えているためです。自分が何を言ったのか覚えられなくなっているのです。

また、一度に多くの情報が処理できないので、頭に浮かんだことだけを繰り返して言うものだと思われます。そして、注意をあちこちに向けることができないため、自分の言いたいことだけに注意が向いてしまうのでしょう。

対応

家族の対応としては、以下のようなことが考えられます。

Dさんのような人を介護する場合、話がかみ合わず、同じ話を繰り返すことにイライラして、大きなストレスを感じることが多いはずです。つい感情的になって、きつい言葉を浴びせてしまうことがあるかもしれません。

しかし、認知症の人には、きつい言葉で感じた悲しさや怒り、不安が残ってしまいます。相手から何を言われたかは忘れても、そのような感情だけは残るのです。

ですから、とても大変なことかもしれませんが、認知症の人の話にはできるだけ素直に答えてあげるのがよいようです。返す言葉をいろいろ変化させる必要はありません。むしろ、同じ言葉をゆっくりと返してあげると、落ち着いてくれるようです。

また、Dさんのように同じことを言う場合は、「テレビを見ますか?」「公園にでも行きましょうか」などと声を掛けて、別のものや場所へ興味や関心が向くように接してみましょう。

認知症の人が暮らす施設などでは、認知症の人同士が会話をしている場面があるそうです。お互いに話はかみ合っていないけれど、誰かが聞いてくれているということと、返事をしてくれるということで安心するのか、落ち着いて会話ができているということです。

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