認知とは何か、記憶とは何か

認知とは何か、記憶とは何か

そもそも、認知症でいう「認知」の意味や、認知のもとになる「記憶」とは、どんなものなのか、見ていってみましょう。

認知とは何か

「認知」とは、人間などの生き物が、ある対象を見たり触れたりするなどして、それが何であるか判断や理解をすることです。つまり、外から入ってくる情報を知的に処理することです。

認知の仕方は生き物によって違いますし、人によっても違います。例えば、人間は目で見て情報を得ることが中心ですが、犬の場合はにおいをかいで情報を得ることが中心になります。また、同じ人でも、状況によって認知の仕方は違います。

記憶とは何か

一方、記憶とは、過去の経験を脳に保存しておいて、後で必要になったときに保存した内容を思いだす働きのことです。
記憶の過程には、3つの段階があります。

  • まず第一段階は「記銘」で、これは物事を覚えることです。
  • 第二段階は「保持」で、記銘したことを脳に保存しておくことです。
  • 第三段階は「想起」で、保持していることを思い出すことです。

認知症になると、これらの過程がすべて障害されてしまいます。よく、「記憶力が悪くなった」という言い方をしますが、記銘・保持しているのに想起できない状態と、認知症になって記銘ができなくなっている状態は、異なるものです。

認知症の人が記銘できなくなるのは、なぜか

人が外から得た情報を、脳においてどのように処理するのかを考える、「記憶の認知モデル」というものがあります。この場合の「モデル」とは、「法則性のある考え方」という意味です。「記憶の認知モデル」では、記憶についてどのように考えているのか見ていきましょう。

人が目で見たり耳で聞いたりして、感覚器から入った情報は、まず「感覚記憶」として記憶されますが、これはすぐに忘れてしまう状態です。しかし、感覚記憶の中で少しでも注意を向けた情報は、数十秒から数分程度は保持できる「短期記憶」となります。情報に注意を向けて記憶しておくものを選び出す働きは、「作動記憶」が行います。

そしてさらに、短期記憶を「長期記憶」にする過程があります。それは、短期記憶の内容を語呂合わせしたり、似通ったものをまとめたりする「符号化」です。

学校の試験の前に、歴史の年号や英単語などを語呂合わせや暗唱などで覚えた経験がある人も、少なくないはずです。そのような方法も符号化のひとつで、短期記憶を長期記憶にするための方法です。認知症の人が記銘できなくなるのは、以上のような働きが障害されることが理由であると考えられています。

脳のどの部分が障害されるのか

短期記憶は脳の側頭葉内側部(海馬とその周辺)、作動記憶は前頭前皮質、長期記憶は脳の各部がそれぞれ障害されることで低下するとされています。認知症の人の長期記憶が比較的良好な理由は、脳のいくつかの部位に分かれて保持されているからです。障害されていない部位で保持されている記憶は、失われずに済むわけです。

一般に、認知症の人の短期記憶と作動記憶は低下しやすいと言われています。作動記憶は知的作業の多くに関わっているもので、いろいろな働きをします。注意したり抑制したりするのも作動記憶ですし、新しく入ってきた情報を脳内の記憶に照らし合わせて判断する役目も果たします。例えば誰かに会った場合、過去に会ったことがある人の情報と照らし合わせて、誰であるかを判断したりするのです。

アルツハイマー病などにより前頭前皮質が障害されると、抑制がきかなくなったり記銘できなくなったり、物事に注意を向けたりすることができなくなります。

 

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