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75歳以上の高齢者の免許証更新時の認知機能検査とは

免許証の保有者にも高齢化が進み、2017年3月12日には道路交通法が改正されました。道路交通法改正の背景にある問題や、75歳以上の運転者に行われることになった認知機能検査について見ていきましょう。

75歳以上の高齢者の事故が増加

テレビや新聞で、高齢者が起こした交通事故についてのニュースや記事を見る機会が多くなってきました。

高速道路を逆走したり、アクセルとブレーキを間違って操作して建物に突っ込んだりするなど、通常では考えられない事故も増えているようです。

免許証を保有する人のうち75歳以上の人は、2016年末の段階で約513万人であり、10年前の2倍にもなっています。そして、75歳以上の人が起こした死亡事故の割合は、10年前の7.4%から13.5%に増えています。

今後、認知症になる高齢者が増加し団塊の世代の人達が75歳以上になると、さらに事故が増えるのではないかと危惧されます。

高齢者の事故の多くは、色々な機能の低下や漫然運転が原因

高齢者が起こす事故は、若者の事故とはかなり違いがあります。

若者は運転経験・技術ともに未熟な場合が多く、スピードの出し過ぎ等の無謀な運転が原因となる事故が多いようですが、高齢者の場合は運転歴は長くても、認知機能、運動機能、判断力が低下し、視野も狭くなるため、運転操作や安全確認が不適当であったり、長年の慣れもあって漫然運転をしたりすることが原因となる事故が多いようです。

漫然運転とは、例えば他車や歩行者を発見してもその動きに注意を向けず、「多分、相手が止まるだろう」などと考えて漫然と運転することです。

運転では、瞬時に状況判断して車の操作をする必要がありますから、情報処理能力も必要です。

自分が停車できると思った地点で停車できずに衝突したり、歩行者に気を取られる余り、対向車の動きを見逃したりする等、意識と行動が一致しないことが増えるのも、高齢者の運転の問題点です。

認知症の高齢者の運転では、さらに危険性が増すことは言うまでもありません。

 

認知症が原因と考えられる交通事故

軽自動車で歩道を暴走した事故(平成27年10月 宮崎市)
認知症の症状がある73歳の男性が、軽自動車で歩道を約700m暴走し、歩行者2人が死亡、4人が重軽傷を負いました。この男性は数年前から認知症の症状があるにもかかわらず運転を続け、複数回の事故を起こしていたそうです。
線路を乗用車で走行した事故(平成27年7月 大阪市)
73歳の男性が乗用車で踏切から線路に侵入し、約7分間、約1.3キロを走行しました。幸い、電車との接触やけが人はなかったものの、走行中の電車とすれ違ったリ電車と同じ方向へ走ったりするという、非常に危険な行為でした。この男性は平成29年まで有効であるゴールド免許保持者でしたが、事故のあとで認知症と診断され、不起訴処分となりました。
高速道路を逆走した事例(平成28年11月 山口県、ほか多数)
アルツハイマー型認知症と診断されていた77歳の男性が、突然高速道路でUターンして逆走しました。その人の妻は運転には問題はないと思っていたそうです。この他にも、80代の認知症の男性が高速道路の追越し車線を約18キロ逆走したり、60代の認知症の男性が約9キロ逆走する等、認知症の運転者の逆走は全国で多発していますが、特に、自動車以外の交通手段が少ない場所での発生が多いとも言われています。

上記の他にも、認知症の男性が自転車で高速道路へ進入したり、川に転落するなどの事故も起きています。

 

認知機能検査の内容

免許証に記載されている更新期間満了日において75歳以上である人は、認知機能検査の対象となります。この検査では、受検者の記憶力や判断力が判定されます。

認知機能検査では、最初に検査用紙が配られて、検査員の説明を受けて回答を記入していく方法が取られています。検査項目は3つあり、全部で30分程度かかるそうです。

項目1:時間の見当識
検査を受けている時の「年月日、曜日、時間」が正しく答えられるかどうかの検査。
項目2:手がかり再生
最初に、4種類の絵が描かれた板が4枚提示されます。検査員が描かれた絵についての説明をするので、全部で16種類の絵を記憶していきます。例えばフライパンの絵について、「この中に台所で使うものがありますね。フライパンですね」などと説明があります。
全ての絵について説明を受けたあと、検査の得点には無関係の別の検査が行われます。「介入課題」という検査で、例えば、数字がたくさん並んでいる中から、指定された数字だけを線で消すような課題です。介入課題のあと、16種類の絵に描かれていた物の名称を検査用紙に記入します。最初はヒントなしで記入し、続いて、提示されるヒントを手掛かりに記入します。
項目3:時計描画
白紙の回答用紙に、まず時計の文字盤を描きます。長針と短針は後から描くので、1から12までの数字を描いておきます。検査員から時刻を指定されたら、その時刻を長針と短針を描いて回答します。

 

認知機能検査の結果は3つの分類で判定される

認知機能検査を受けたあとの手続き等について、ここでは警視庁の場合を紹介します。認知機能検査の結果は採点基準により点数化され、次の3つのいずれかになります。

  1. 認知機能が低下している。
  2. 認知機能が少し低下している。
  3. 認知機能は低下していない。

1.の場合、臨時適性検査(専門医の診断)の受検、または医師の診断書の提出が必要です。もしも認知症と診断された場合は、免許取り消し等になりますが、認知症ではないことがわかった場合は、高齢者3時間講習を受講後、免許証の更新が可能となります。

2.の場合は、高齢者3時間講習を受講後、免許証の更新が可能となります。

3.の場合は、高齢者2時間講習を受講後、免許証の更新が可能となります。

 

日頃から高齢者の運転に身近な人が目を向ける

警察庁が行った試算によると、この度の道路交通法改正により、年間5万人程度の高齢者が医師の診断を受け、その3割に当たる1万5千人程度の高齢者が免許取り消しや免許停止となる見込みであるそうです。

これは2015年の場合の10倍を超えているとのことで、今後はさらに増加するものと考えられます。

また、免許の更新を行う3年に一度の認知機能のチェックだけでは充分ではないという指摘もあるようです。やはり、日頃から家族や地域の身近な目を通して、高齢者の事故を防止する働きかけが必要であると言えるのではないでしょうか。

 

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