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軽度行動障害(MBI)

軽度行動障害(MBI)

2016年7月にカナダのトロントで開催された国際アルツハイマー病協会国際会議では、軽度行動障害(MBI:Mild Behavioral Impairment)が、認知症または軽度認知障害(MCI)の前の段階で現れる最初の兆候ではないかという研究結果が発表されました。

MBIはMCIの前段階

このサイトでも、MCI(軽度認知障害)が進行すると認知症になる場合があることに触れていますが、今回の研究結果では、MCIのさらに前の段階として、MBIという指標(認知症であるかどうかを判断するための、基準や目印のようなもの)が提案されました。

MBIは、いろいろな行動が障害されているかどうかをチェックする35問の質問が指標となります。このチェックリストは、国際アルツハイマー病協会が後援する専門家のグループにより開発されたもので、質問の内容に多く該当する高齢者は、MCIになる可能性が高いと考えられるそうです。

 

MBIのチェックリストとは

MBIのチェックリストの質問は次の5つの種類に分かれていて、質問の内容に該当する場合は「はい」を選択し、症状の程度により3段階で答えるようになっています。

回答する際に注意することは、質問の内容にある症状が高齢期になって現れたものであり、6か月以上続いている場合のみ「はい」を選択するということです。

  1. 物事への意欲や関心。
  2. 不安や気分について。
  3. 物事を楽しめるか、衝動や行動を自分で制御できるかどうか。
  4. 社会のルールを守り、節度を保って行動できるかどうか。
  5. 思考について。

それぞれの種類の質問の中から、1問ずつ紹介しておきます。

  • これまでは関心を持っていたことに、何の関心も持てなくなっていないか(1.より)。
  • 物事がうまくいかす、将来に望みはないと思うようになっていないか(2.より)。
  • 車の運転中、急に加速や進路変更をする等、無謀さや判断の甘さは見られないか(3.より)。
  • 相手の気持ちを考えていない失礼なことや、みだらな性的なことを言ったりしないか(4.より)。
  • 持ち物が盗まれたり、危険な目に遭ったりしていると思い込んでいないか(5.より)。

 

認知症では、まずMBIが現れるのではないか

従来より、認知症は記憶障害であると考えられてきましたが、実際、認知症の初期の段階では、不安に陥ったり方向感覚が失われて迷子になってしまったりするMBIが多くあるようです。

アルツハイマー協会の主任科学官であるカリロ博士は、アルツハイマー病や認知症は単なる記憶障害であるとは言えないとし、MBIとして現れる症状にアルツハイマー病や認知症に関連したものがあると話しています。

そして、認知症の診断方法がこれまでとは劇的に変化するのではないかと話し、MBIのチェックリストは非常に意義があるものとして高く評価しているようです。

どんな病気でも、早い段階で正しい診断を受けることができれば、それだけ早く適切な治療を受けることができます。認知症のように周りの人からの働きかけが大切な病気では、特に早期に見つけることが大切です。

 

MBIチェックリストにより、認知症の診断を確実に

また、カナダにあるカルガリー大学のイスメイル氏は、このチェックリストにより、認知症以外の精神病との区別が早い段階で可能となれば、本当は認知症であるのに、間違って他の病気の治療を受けてしまうこともなくなるのではないかと話しています。

NHKが専門医を対象に行ったアンケート調査によれば、認知症ではないのに間違って認知症と診断されていた人が、2014年だけで、全国で少なくとも3,500人以上はいたとのことです。認知症の薬を服用したために副作用に悩まされたり、症状が悪化したりしたケースもあるようです。

認知症と間違われやすい病気や症状には、うつ病、せん妄、加齢に伴う衰え等があると言われています。一般的に、認知症の診断は非常に難しいとされている上、専門医が非常に少ないことも原因のひとつなのでしょう。

例えば、脳のMRI検査の結果を重視して、脳に萎縮が見られたため認知症であると診断されてしまったという場合もあるようですが、MBIのチェックリストを活用することも、そのような診断の誤りの予防につながるのではないでしょうか。

日本では、高齢化が進んでいくことにより、認知症がますます増加する可能性があります。認知症を予防することも大切ですが、かかってしまったと思われる場合は、早い段階で正しく診断を受けて治療を開始することで、少しでも健康寿命を延ばしていきたいものです。

 

 

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