認知症本人の世界2
認知症本人の世界2
認知症の人の心の中はどのようなものなのか。本人の世界はどうなっているのか。あくまでも想像するしかないものですが、「認知症の人のつらい気持ちがわかる本」(杉山孝博氏著)から引用・参考にさせて頂き、考えてみます。
一番近くの人にわがままになる
認知症に、症状の出現強度の法則があるようです。症状は、より身近な人に対して強く出る、という法則です。
例えば、普段認知症の症状に振り回されて必死に介護している娘はその症状に直面しているのですが、たまに訪れる他人や親戚の前では本人はしっかりしている(しっかりして見える)というものです。他人は「しっかりして大丈夫じゃない」などと無理解な状態で接して、普段から疲弊している介護者をさらに傷つけてしまいます。
認知症の人の半数にあらわれるという物盗られ妄想も、もっとも身近な介護者や家族、出入りするようになったヘルパーさんや、施設の職員などが、盗った犯人にされてしまうことが多いようです。これは、一番安心できる相手だからこそわがままになる、言いたい放題言ってしまう、という傾向からくるようです。
自分を守ろうとする
人にはみな自分を守ろうとする本能(自己防衛本能)があります。この中で、自分の評価を下げたり自分の能力が低下したことを認めようとしない傾向があります。
これは認知症の人にも当然あります。責められたり叱られたりすることを嫌い、失敗を認めず、不利な状況を巧みにかわそうとする傾向があります。自己有利の法則というようです。そのために、周囲から見ると白々しい嘘を平気でつくこともあります。
記憶障害と自己有利の法則が合わさって、
- 忘れたことは「知らない」と言い張る
- 自分が失くしたものを「誰かに盗られた」と責任転嫁する
- その場しのぎの言い逃れをする
このようなことが現れることがあります。「物盗られ妄想」はその典型かもしれません。周囲の人から見ると、それが認知症の症状からくるものなのか本人の性格なのか、見分けがつきません。あまりにも狡猾にずるく見えてしまい、気分を害します。しかし本人の中では、このような本能からくる反応であることがあるようです。
ひとつのことにこだわり、抜け出せなくなる
認知症の人には、ひとつのことにこだわり、抜け出せなくなる特徴(こだわりの法則)があるようです。
- 夫(妻)が浮気していると言い張る
- 実際には目に見えない妄想などを、本当にあるものだと言い続ける
- 物を盗られたと言い続ける
- 昔あったことを、今起こっていることのように訴える
こういった症状があるようです。あるひとつのことが頭に残って抜け出せなくなるのです。周囲が否定すればするほどこだわり続ける特徴があるようです。
対処法としては、無理に否定したり説得しようとせず、そのことに付き合ってあげたり、他の事で気を紛らわすなどして、こだわりが自然におさまるのを待つしかないようです。
ただし家族にとっては、日常的にこういったことが続くと振り回され、心身を疲弊させ、大変な思いをします。限界を感じたら、できるだけデイサービスを利用するとか、ケアマネージャーに相談するなどしましょう。