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ダンスで脳が刺激されて増加する海馬。アルツハイマー病を予防

ダンスで脳が刺激されて増加する海馬。アルツハイマー病を予防

趣味を楽しむことは、認知症の大きな原因となるアルツハイマー病の予防や改善に効果的であることが知られていますが、その中でもダンスの効果が注目されているようです。なぜ効果があるのか、詳しく見ていきましょう。

ドイツのダンスによる認知症予防の研究で、海馬が大きくなっていた

ドイツのマグデブルグにある神経変性疾患センターでは、キャスリン・レフェルド博士らがダンスが認知症に及ぼす効果についての研究を行い、2017年に学術専門誌に結果が発表されました。

レフェルド博士らは、高齢者の記憶や身体能力の低下を予防・改善するとされる運動に着目し、運動の種類によって効果が異なるかどうかを調べました。

運動として、ダンスと通常のトレーニング(筋トレやストレッチ等)の2種類を選び、63歳から80歳まで(平均年齢68歳)の健康な人26名(ダンス:14名。トレーニング:12名)の協力を得て、1年半にわたって研究が行われました。

ダンスを行ったグループでは、基本的なダンスの動き(重心移動、片足立ち、回転、ステップ等)を習得し、ジャズダンスやラテンダンス等、種類も豊富に取り入れたとのことです。参加者は、振り付けを忘れないように踊ることが要求されたそうです。

トレーニングのグループでは、体の柔軟性や持久力・耐久力を高める運動を行い、どちらのグループも最初の半年間は週に2回、残りの1年間は週に1回継続しました。

それぞれの運動の効果を調べるために、バランス感覚と感覚器官(視覚等)の能力を測定し、MRI検査により脳の海馬の大きさも調べたところ、どちらのグループも海馬が大きくなっていました。

さらに、ダンスを行ったグループのみバランス感覚が改善し、海馬の中の「歯状回」という部分も大きくなっていることがわかりました。海馬は記憶をつかさどる重要な部分ですが、加齢に伴って萎縮することが多く、アルツハイマー病の発症にもかなり影響する部分です。

高齢者は家の中で転倒してケガをすることも少なくないので、ダンスによりバランス感覚が改善することは、非常に意味のあることです。

 

アメリカの研究で、ダンスを行ったグループの脳弓の密度が高くなっていた

アメリカのニューヨークにあるアルベルト・アインシュタイン医学校で2003年に行われた研究では、知的活動(読書やパズル等)を行う方が、身体的活動(ゴルフやテニス、水泳等のスポーツ)を行うよりも認知症の予防効果が高いという結果が出たそうですが、ダンスだけは例外だったそうです。

そして、その10年後の2013年、New England Journal of Medicine誌にもダンスの効果についての研究結果が掲載され、振り付けが決められていない自由に踊るダンスは、読書と比べて2倍も、認知症のリスクを低下させる効果が高いことが発表されました。

自分で振り付けを考えながら体を動かすため、脳へ複雑な信号が送られて脳が活性化し、認知症のリスクが低下したのではないかとされています。

さらに2017年には、アメリカのコロラド州立大学のブルジンスカ博士らの研究結果が発表されました。この研究では、運動の種類ごとに4つのグループでの比較が行われました(1.ウォーキング、2.ダンス、3.ウォーキングと栄養指導、4.筋トレ)。そして、脳を21の領域に分けて観察を行ったそうです。

大脳の奥深い部分には、脳弓という弓のような形をした部分があり、その先端には海馬があります。この脳弓の部分に、ダンスを行ったグループとダンス以外のグループでは大きな違いがありました。

ダンスを行ったグループの脳弓の密度が高くなっていたのです。脳弓も海馬と同様に記憶に関する重要な役割をしていて、認知症の大きな原因となるアルツハイマー病発症に関わっているようです。

そして、ひとつ興味深いことがありました。研究の参加者は、ほぼ全員が脳の白質(脳の表面でなく内側の方)に衰えが出てきたにも関わらず、思考能力は向上していたことです。

ブルジンスカ博士によると、脳そのものが変化し始めてもすぐに記憶力や思考力等が低下するわけではなく、時間差があるのではないかということです。

日本でもダンスの研究や積極的な導入が

海外だけでなく日本でも、国立長寿医療研究センター(名古屋)において、ダンスが認知症にどのように影響するかについての研究が進められているそうです。

名古屋市に住んでいる70歳以上のMCI(軽度認知障害)の人を対象に、社交ダンス、打楽器の演奏、健康教育講座の受講の3つのグループにおいて、認知機能の低下がどれだけ予防できるかを比較する研究です。

また、高齢者向けのサークルやデイケア等でも、ダンスを採り入れているところが出てきました。

北海道の苫小牧市にある地域包括支援センターの介護予防教室では、平均年齢75歳の高齢の参加者が、ヒップホップダンスを踊っているそうです。若者が踊るものと思われがちなテンポの速いダンスですが、練習を重ねることで複雑な動きもできるようになっているそうです。

センターの担当者は、「高齢者はこうあるべき」という固定観念を拭い去り、新しいことに挑戦する場を提供することで、介護予防や認知症予防に取り組みたいと話しています。

 

ダンスで心も体も刺激されて活性化

ダンスでは、いくつかの動作を同時進行で行うことになります。

音楽に合わせて体を動かすためには、まず音楽をよく聴くことが必要です。社交ダンスのようにペアで行う場合は、相手の動きにも合わせることが求められます。

さらに、ステップを考えたり振り付けを覚えたりして、いくつかの動作を同時進行で行うため、記憶力も集中力も必要で、脳が複合的に刺激されて活性化すると考えられています。

そして、ダンスを踊るためには周りとのコミュニケーションが必要です。

運動をするにしても、例えばマラソンやウォーキング等では、必ずしも周りとのコミュニケーションを取る必要がないため、ひとりでも気楽に行うことはできます。しかし、認知症予防が目的で行なう場合、ひとりで黙々と走ったり歩いたりするような運動では、楽しむというよりもむしろ「認知症予防のために運動しなくては」という気持ちが先に立って、なかなか長続きしないこともあるかもしれません。

また、ダンスでは衣装を着ることが多いため、日常とは違った感覚でおしゃれを楽しむこともできますから、心が弾んで笑顔も出てくることでしょう。美しく着飾って美しく踊ることで、芸術的な感覚も養われると言えそうです。

異性のパートナーがいる場合には、相手を意識して、若々しく美しくありたいという気持ちもめばえるようです。

ダンスを始める前は、気恥ずかしくてできないと感じる高齢者も少なくないそうですが、いざ始めると、その楽しさに魅了されるそうです。楽しく踊りながら認知症の予防ができるわけですから、やってみない手はありませんね。

 

 

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