介護施設「夢のみずうみ村」で導入されている「バリアアリー」

介護施設というと、「バリアフリー」をイメージされると思います。以下のように、利用者が少しでも楽に安全に行動できるように考えるのが、ごく一般的でした。

  • 転倒防止のためになるべく段差をなくす
  • 各所に手すりを設置する

しかし、最近注目されている介護施設で取り入れられているのが、これと反対の方針である「バリアアリー」です。「バリアアリー(有り)」というのはその言葉の通り、障害になる段差や階段などがたくさんあるということです。

段差や階段などがたくさんあるとは、一見して高齢の利用者に優しくない施設のように感じますが、実はそのバリアアリーのおかげで「できることが増えた」という入居者が現れているようです。認知症の予防・改善にも期待される「バリアアリー」という考え方や効果についてご紹介します。

デイサービス施設「夢のみずうみ村」のバリアアリー

山口県や千葉県にあるデイサービス施設「夢のみずうみ村」が、「ガイアの夜明け」やNHKの番組など、数々のメディアで取り上げられて話題になっています。注目されているのが「バリアアリー」の考え方に基づいた施設内部です。

段差や坂、階段、手すりの代わりに設置された不安定なロープなど、介護施設には相応しくない作りが目立ちます。障害や困難をあえて作り、入居者にリハビリの一環としてこれらを克服し、慣れていってもらおうというものなのです。
施設の代表である藤原さんは「できることは自分でやる」「“できる動作”を訓練して日常的に“している動作”にする」という考え方の基、このような施設の作りにして、それぞれの自立する力を引き出すことを目標にしています。

「バリアアリー」は利用者の負担にならないか

しかしいくらリハビリのためとはいえ、デイサービスを利用するような状態の人が、自ら手すりの不安定な階段や長い廊下を歩いていこうと思うかどうか、疑問を持つ人もいるかもしれません。

ところが実際には、この施設の「バリア(壁)」はほとんどの入居者にとって負担ではなく、むしろ楽しんで取り組む姿が多くみられるようです。

施設の代表である藤原さんは、生きることを楽しむためのリハビリとして、様々な工夫を凝らしました。手すりが不安定な階段の先には「楽園」と呼ばれるマッサージ機が並ぶスペースがあったり、長い廊下の先には料理教室などが開かれているスペースがあるのです。それらを利用することを楽しみにして、利用者は歩いていくそうです。

安全のため、随所には見守りをする介護スタッフが配置されており、必要な時には補助をします。

自分で選ぶ楽しみ

一般的には、介護施設でのリハビリ・食事などといえば、全てプラン・メニューが決まっており、利用者はそれに従って手取り足取り介助をしてもらいながら過ごすイメージがあるかもしれません。「夢のみずうみ村」では、プラン・メニューを自分で選ぶことができます。その日の気分・体調によって活動を増やすことも減らすことも自由なのだそうです。

食事もここではバイキング方式となっており、各自が好きなメニューを好きな量で盛り付けます。移動用のワゴンが用意されており、それに乗せて自分で配膳・下膳するようになっています。

「上げ膳据え膳」の施設では考えられないことですが、これも「リハビリ」を目的としたバリアアリーです。利用者は、メニューを自分で選ぶ楽しみがあるからこそ、進んで食事の準備をするそうです。「選ぶ」という行為は、人が自分らしくいるための、最も基本的な行為の一つなのかもしれません。

「バリアアリー」がもたらす心身への効果

「夢のみずうみ村」のリハビリ理念は、「リハビリとは、生きていることを味わい楽しむことが目的」だといいます。

実際の利用者の例として、脳梗塞による麻痺があった人が、数カ月で階段を楽に上がることができるようになったそうです。そしてこのことは、日常生活に明るい影響を与えました。家でも家事などできることが増えて、塞ぎ気味だったこれまで気持ちも変化し、いろんなことに取り組もうとする意欲が出てきたそうです。

認知症の予防・改善にも

認知症の人にとっては、「自分で選ぶ」という、周りから見たらささいなことが喜びとなります。また、「自分でできる」と感じることは、大きな幸せです。

介護者が日常の活動を「本人にはわからない・できない」と決めつけて、全てをお膳立てしてしまうことは、本人の生きていく意欲やできることの可能性を無くしてしまうかもしれません。
自分で選んだ楽しみのために自分で「バリア」を克服していくことは、成し遂げたときの達成感を生み、次への「やる気」を生むことになるでしょう。

「夢のみずうみ村」で導入されているバリアアリーの考え方が広がれば、認知症の予防・改善にもつながるのではないでしょうか。高齢になってたとえできないことが増えたとしても、「そのときのできる能力」を活かして、「生きることを楽しむ」のは、大きな希望になると思います。

 

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