認知症の人を保護・救助する中学生・高校生、警察署からは感謝状
認知症の人が行方不明になったり、徘徊していて保護されたりしたというニュースを目にすることがあります。
警察庁がまとめた2015年中の調査によると、認知症またはその疑いによる行方不明者は12,208人だったそうですが、その多くは無事に保護されているそうです。警察に保護されるケースもありますが、最近では、中学生や高校生に保護されるケースもあるようです。
男子高校生のグループが認知症の女性を保護
2016年8月27日の夕方、佐賀県の男子高校生5人は、学校からの帰り道で高齢の女性から声を掛けられたそうです。女性は警察署の場所を知りたいようでしたが、会話のやりとりがうまくできず様子がおかしかったので、彼らは女性に付き添って警察署まで同行することにしました。
5人のうち2人は、少しでも早く警察署で対応してもらえるよう、先に自転車で事情の説明に向かいました。
その日の最高気温は33度であり、夕方とはいえまだ暑く、交通量も多い道路のそばでの出来事だったため、ひとつ間違えば女性の命にも関わる事故に繋がる恐れがありました。
高校生たちの思いやりのある行動は、人命救助につながる功労であるとして、警察署からは感謝状が贈られたそうです。彼らは、女性をそのままにしておくわけにはいかないと感じたそうですが、一人でなく仲間との協力があったからこそ行動できたのではないかと話していたようです。
「認知症サポーター養成講座」を受講した女子中学生も、認知症の女性を保護
栃木県では、2016年2月19日に認知症の女性が女子中学生に保護され、無事に自宅に帰ったという出来事がありました。
女子中学生はやはり学校からの帰り道だったそうで、高齢の女性から道を尋ねられたものの、知らない町名であったため答えられず、一度は帰宅してしまいました。
しかし、女性のことが気がかりで再度女性のいた場所へ戻り、名前と住所を尋ねたところ、名前は答えられたものの住所の番地が答えられなかったため、女子中学生は父親に相談して女性を家に連れて帰りました。
父親が役所へ電話をしたところ、女性の夫が家まで迎えに来て、女性は無事に帰ることができました。女性は認知症だったそうですが、この女子中学生は、小5の時に学校で「認知症サポーター養成講座」を受講した経験がありました。
講座で学んだことが役に立って、実際に認知症の人を保護することができたということは、非常に意義のあることだと言えます。
認知症サポーター養成講座
認知症の女性を保護した栃木県の女子中学生が受講していた認知症サポーター養成講座は、認知症になっても安心して暮らせることを目的に行われている講座で、平成27年1月に国が打ち出した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」の施策のひとつでもあります。
認知症サポーター養成講座を受講すると、誰でも認知症サポーターになることができます。認知症サポーターになっても特別な任務はありませんが、認知症の人や家族を地域で支援し見守ることが求められています。
講座は、都道府県や市町村、または社会福祉協議会等の主催で開催されることが多く、学校や企業で児童・生徒、社員を対象に開催されることもあり、1時間半程度の短時間で、認知症についての基礎知識や接し方について学ぶことができます。
認知症の人を「夕暮れ症候群」から守る
福岡県のケースで、男子高校生がバスの中で認知症の女性を保護したとのことです。
当ページの3件とも、学校帰りの夕方のできごとですが、もしかしたら、認知症の人が夕方になると落ち着かなくなることと関係があるかもしれません。これは、「夕暮れ症候群」という言葉で呼ばれることもあります。
夕方になるとだんだん外が暗くなってくることに加え、誰もが忙しくなる時間帯であるため、認知症の人も落ち着かない状態に陥るのではないかと考えられています。徘徊と言われることもあるようですが、本人にとっては目的や理由がある場合があるようです(参考:徘徊)。
家庭であれば、夕食の支度を始めたり職場や学校から家族が帰宅してくる時間帯であり、施設であれば、利用者の送迎や職員の交替等であわただしくなる時間帯です。このような状況の中で、認知症の人が自分もどこかへ帰らなくてはならないと思って、一人で外へ出てしまったりすることもあるようです。
夕方になると学校から帰ってくる学生は、ちょうどそのような認知症の人に出くわしたりすることもありそうです。
認知症への理解を啓発する動き
認知症サポーター養成講座とは別に、一部の企業が高校生や中学生を対象に、学校への出張授業という形で認知症への理解を啓発する動きもあるようです。日本の将来を担っていく学生たちに認知症への理解を促していくことは、将来にわたって必要であると言えるでしょう。
学校帰りに認知症ではないかと思われる人を見掛けた時、思いやりと勇気をもって声を掛けることで、命を救える場合もあることを伝えていくべきではないでしょうか。もちろん、学生以外の大人たちにとっても同じことです。