認知症になりやすい性格3(神経症傾向、中年期の性格)
認知症になりやすい性格3(神経症傾向、中年期の性格)
人の性格にはいくつかの特性がありますが、どのような性格の人が認知症になりやすいのでしょうか。
神経症傾向が強い人はなりやすく、責任感の強い人はなりにくい?
心理学者オールポート氏が論じる「ビッグファイブ」という5つの性格特性があり、次のように分類されています。
- 神経症傾向:抑うつ的で不安が強く、傷つきやすい。
- 外向性傾向:社交的で活動的。楽観的な考え方を持ち、陽気で親しみやすい。
- 開放性傾向:感情が豊かで、新しいものに関心を持つ。自分とは異なる価値観も受け容れる。
- 調和性傾向:他者に友好的で謙虚さも持つ。他者に優しく信頼を寄せる。
- 誠実性傾向:几帳面で勤勉。慎重で責任感が強い。
東京都健康長寿医療センター研究所の増井幸恵氏によると、この5つの傾向のうち、認知症になりやすいのは神経症傾向が強い性格の人で、なりにくいのは開放性傾向と誠実性傾向が強い性格の人であることがわかっているそうです。
また、米フロリダ州立大学で行われた研究では、誠実性の中でも「責任感」が最も認知症に関係があり、責任感が強い人は認知症の発症リスクが35%低下したことが報告されています。
責任感の他に自制心や勤勉さと認知症との関連性も指摘されていて、両者に欠ける人は認知症になりやすいこともわかっているそうです。
神経症傾向が海馬に与えて認知症に影響
神経症傾向が強い人は不安が強く悲観的であると言えそうですが、米ミシガン州のメイヨークリニックの研究により、このような性格の人は、認知症になるリスクが通常の1.3倍も高いことが報告されています。
性格が脳細胞にどう影響しているのかはまだ解明されていませんが、神経症傾向が強ければうつになりやすいため、ストレスの影響を強く受けるものと考えられます。
ストレスにより、脳の中でも記憶を司る重要な部分である海馬が損傷を受けてしまいますから、認知症になりやすいと言えるのではないでしょうか。
ストレスには多くの原因がありますが、ストレスの感じ方には個人差が大きいと言えます。
同じことを経験しても、性格により受け止め方が異なります。物事を悲観的にとらえる人と楽観的にとらえる人とでは、ストレスの感じ方は大きく異なるはずですから、海馬の損傷の程度も違ってくるはずです。
中年期に内閉型・感情型・無力型・粘着型の性格は要注意
1990年に、東京都老人総合研究所副所長だった柄澤昭秀博士が、日本では初めて、頑固で融通がきかない人は認知症になりやすいことを証明したとのことです。
柄澤博士は、人の性格を下記の8つのタイプに分けています。
- 同調型:社交的で明るい
- 執着型:責任感や正義感が強く、義理堅い
- 内閉型:閉鎖的で無口。非社交的
- 感情型:わがままで気性が激しい
- 無力型:消極的でくよくよする
- 強迫型:潔癖で礼儀正しい
- 粘着型:気難しく、頑固
- 意思薄弱型:優柔不断で、ずぼら
柄澤博士らの研究は、認知症の人165名と、年齢が近い健康な老人376名を対象に行われました。
彼らの近親者に、彼らが40~50歳だった頃の性格について質問したところ、認知症の人は健康な老人と比べて、内閉型と感情型、無力型、粘着型の人の割合が高く、統計学的な「有意差」があったとのことです。
※有意差とは、偶然生じた違いではなく、本当に意味のある違いがあるということです。
他人の批判や悪口は、言葉が自分の脳を傷つける
WHO(世界保健機構)の2016年の統計では、世界で認知症により死亡する人の割合が最も高いのはフィンランドで、年間で人口10万人あたり53人以上だそうです。フィンランドの次には、アイスランドやスウェーデン等、欧州の寒い国々が続いていて、日本は58位です。
そのようなフィンランドの東フィンランド大学で行われた研究に、言葉と認知症の関連を調べたものがあります。
この研究では、平均年齢71歳の高齢者1449人が対象となりました。
「誰も信用できない」と信じ込んでいたり、日常的に他人を批判したり悪口を言ったりしている人は、認知症になるリスクが3倍も高くなることが判明し、発する言葉も脳に大きく影響することがわかったそうです。
どんな言葉を発することが多いのかは性格とも関係がありますが、良くない言葉は自ら脳を傷つけていることになるようです。
予備能を増やすことで、認知症を予防
しかし、元来の性格を変えることは簡単ではありません。認知症になりやすい性格である人は、認知症になることを覚悟するしかないのでしょうか。
実は、脳を刺激して「予備能」を増やせば、認知症の予防ができることが明らかになっています。「予備能(spare ability)」とは予備能力のことで、この場合では脳の中に多くのシナプス(神経細胞どうしのネットワーク)を作ることである、と言われています。
脳の中では多くの神経細胞どうしが結合してシナプスを形成していますが、仮に100個のシナプスのうち半分にアルツハイマーの病変が生じたとしても、残り半分が健康であれば、アルツハイマー病にはならずに済む場合もあるということです。
実際、人間は脳全体の1割程度の部分しか使っていないと言われていますから、もっと脳を使って刺激することで、シナプスを増やすことが重要であるということです。
新しいことに取り組むと、それまで使っていなかった脳の部分を使ってシナプスが増える、つまり予備能が増えるということです。
スノードン教授(米ケンタッキー大学)が1986年より「修道女研究」を行っていて、脳の病変と認知機能の関係が報告されています。約700名のカトリック修道女の協力のもと、彼女らの死亡後に脳を解剖して調べるという研究です。
生前に認知機能を調べておいて、死亡後の脳の状態も調べたところ、脳に重い病変があるにも関わらず、生前の認知機能は正常だった人や、逆に、脳の病変が軽くても認知症にかかっていた人がいることがわかりました。
「脳に重い病変があるにも関わらず、生前の認知機能は正常だった人がいた」、これこそが、脳の予備能による違いであるということです。
一生の間にどれだけ脳が刺激を受けたか
脳の予備能が多いかどうかは、幼少期の環境や学歴、従事していた仕事の内容、社会的な活動量にもよることがわかっています。
つまり、一生の間にどれだけ脳が刺激を受けたかということです。
高齢になっても、もう遅いと諦めることなく、積極的な社会参加(地域でのサークル活動や町内会等)や趣味を持つことを忘れないようにしたいものです。
認知症を過度に怖れて悲観的になるのではなく、できる限り楽観的に物事を受け止めて、ストレスを受けても上手に解消できればいいですね。
たとえ性格を変えることは困難でも、行動や考え方を柔軟に変化させることなら可能ではないでしょうか。