アミロイドβはアルツハイマー病の直接の原因ではない?1
アミロイドβはアルツハイマー病の直接の原因ではない?1
これまで、アルツハイマー病の原因は「アミロイドβ(ベータアミロイド)」というタンパク質が脳内で蓄積し、大きくなることによって神経に傷を付けていることだと考えられていました。その研究結果を活かした治療薬も、現在開発中です。
しかし、「アミロイドβの蓄積がアルツハイマー病の直接的な原因ではない」と言えるような研究結果が発表されました。アミロイドβが蓄積する前から、アルツハイマー病は進行している可能性が出てきたようです。その研究結果を紹介します。
アミロイドβが原因とは言い切れない結果
アミロイドβが脳内に多く蓄積することによって、神経を傷付けることがアルツハイマー病の原因とされてきたのですが、そうとは言い切れないような研究結果が出ていたようです。
スタンフォード大学のCarla Shatz博士が行ってきた研究の中で、アルツハイマー病を起こすように遺伝子操作をしたマウスを使った研究がありました。マウスは、年をとるにつれて記憶力が減退していきました。しかしそのマウスは、遺伝子操作によって、若い時からアミロイドβが大量に脳内にある状態だったにもかかわらず、年をとるまでは記憶力が減退することがなかったそうです。
アミロイドβが蓄積することがアルツハイマー病の原因と考えるのなら、このマウスは若い時に発症しているはずだったのではないでしょうか。
アミロイドβが蓄積前からアルツハイマー病を発症
2012年、Carla Shatz博士が共同著者となっている研究から、さらにアミロイドβ蓄積説を疑うような結果がでたようです。同様にアルツハイマー病を起こさせるように遺伝子操作をしたマウスと、健康なマウスの脳を比べた結果です。
健康なマウスは若い時に健康な神経細胞を持っているにも関わらず、遺伝子操作をしたマウスの若い時の状態よりも、脳のある領域では柔軟性が奪われていることがわかりました。
この結果により、「アミロイドβが蓄積」「記憶力が減退する」といった症状が出る前から、アルツハイマー病の初期症状が現れているのではないか、と考えられるようになりました。
神経細胞の柔軟性を奪うのは、PirBと水溶性アミロイド
さらに研究は進められ、神経細胞の柔軟性を奪う原因がわかったそうです。マウスの脳内にある「PirB」と呼ばれる受容体と、水溶性アミロイドが結合することがその原因とのことです。
Carla Shatz博士は、アルツハイマー病を起こすよう遺伝子動作を行ったマウスと、「PirB」を取り除いた系統のマウスを掛け合わせて、両方をそなえたマウスを作りました。そのマウスは、健康なマウスと同じ神経細胞の柔軟性を持っていたそうです。また、年をとっても健康なマウスと同じくらいの記憶力がある、という結果が出ました。
逆に、「PirB」を取り除いていないマウスは、記憶力の減退が確認されたそうです。
人間の場合にも当てはまり、薬の開発に影響
ここまでの研究により、アルツハイマー病の原因となるのは「水溶性アミロイドと「PirB」が結合すること」であることがわかりました。あくまでもマウスによる研究でしたが、その「PirB」に相当する、人間の受容体である「LilrB2」がアミロイドβと結合されることも、証明されたそうです。
アミロイドβの蓄積が始まる前からアルツハイマー病の症状が進行している可能性というのは、とても高いようです。
Carla Shatz博士は、「PirB」とアミロイドβの結合を防ぐ薬として、可溶性の「PirB」断片が治療につながるかもしれないことも提言しているそうです。これまで開発されてきた薬のアプローチとは違いますが、今回の研究結果は、より確実に治療につながる薬の開発へ影響すると思われます。