デイサービスは最高に居心地がいい母の居場所になった
2015年の夏から、私の母(82歳)は、週3~4日でデイサービスに行くことになりました。
どうなることかと余計な心配ばかりしていた私でしたが、そんな私の想像をはるかに超え、デイサービスは母にとって最高の居場所になりました。
中には、デイサービスを苦手とする高齢の方もいらっしゃるようですが、母にとっては、楽しい場所でしかなかったようです。
デイサービスでどんなことをしているのか、その時は、何も知らない私でしたが、お迎えに来られたスタッフの方が、母に接する様子を見ているだけでも、母がとても楽しみにしているのがわかる気がしました。
母の体に触れ、大きな声でゆっくりと冗談を言いながら話しかけていらっしゃいます。見習わなければならない点でした。
自宅にずっといた頃は、常に不満そうな、そして寂しそうな顔をしていた母でしたが、そんな母の笑顔がどんどん増えていったのです。
(参考:デイサービス(通所介護))
元気に出て行く母、時には子供のように駄々をこねることも
デイサービスからお迎えが来て、母が車両に乗り、出発して見えなくなるまで見送りをするのが私の習慣になっていました。
母の機嫌が悪い日は、私を完全に無視することもありました。しかし、機嫌が良い日の母は、玄関を出る時「行ってきます!」と元気に言うのです。私も「行ってらっしゃい」と答えます。
お迎えに来られる時、既に数名の方が乗っていらっしゃいましたので、母が窓側に座ることはほぼありませんでした。
奥に座った母は、車の中から私に向かって、おそらく「いってきます!」と言いながら、むじゃきに手を振るのです。私も、そんな母に、車が見えなくなるまで手を振り続けました。
この頃は、幼稚園に送り出す母親の気分でした。
また、駄々をこねる時もありました。「みんな、いろいろお茶菓子を持って来て、分けて食べているから、私も持っていく」と言うのです。
母も糖尿病ですが、同じようにさまざまな病気の方もいらっしゃいますので、デイサービスにお菓子を持っていくということはあり得ません。
そのように母に説明しても、聞く耳もたず、機嫌が悪くなるばかりです。まるで、小学生が遠足に持っていくおやつをねだっているかのようでした。
他の利用者の方と仲良くしたいと思い、母なりに考えたことだったのかもしれません。
デイサービスに仕事に行っていると思い込んでいた母
「デイサービスに行っていることを、母はとんなふうに思っているのか?」それは私の疑問でした。
ある日、デイサービスから帰宅した母はこう言ったのです。
「あー!今日は疲れた!お客さんが多くて。」
何を言っているのか、さっぱりわかりませんでした。でも、よくよく聞いていると何となくわかってきたのです。
私は、母一人、子一人の母子家庭で育ちました。苦労して育ててくれた母は、ホテルで仕事をしていたことがあります。おそらく母の人生の中で、いちばん頑張っていた時代です。
ホテルには支配人がいらっしゃいます。私も、その支配人に可愛がっていただきました。母からその「支配人」と言う言葉がでた時、過去の記憶と交差しているのだと気づきました。
「明日も仕事だから、遅れないようにしないと支配人に怒られるから」と言います。母は、デイサービスに仕事に行っていると思い込んでいたのです。
そんな話をする母に対して、どう対応すればいいのか悩んだことを思い出します。
(参考:記憶障害)
「支配人」それは、母の頭の中の存在と思っていました。しかし、その言葉がでてくるたび、あまりにも鮮明なので、不思議に思っていたのです。
じつは、実際に存在していました。それは、デイサービススタッフの、どなたかのようでした。
私は、軽いジョークとして、その内容を連絡帳で伝えたのです。それを見て、デイサービスでも、半分楽しんで「誰のことだろう・・?」と考えていたそうです。
のちに、デイサービスの家族会に参加した時、その正体を知ることになります。
デイサービスの家族会に、子供の授業参観に行くような気分で
2015年夏、デイサービスから「家族会」の案内ハガキが届きました。母が、デイサービスに慣れて、毎回楽しみにしていた頃です。
家族会は、“利用者の家族が抱えている介護の悩みや、介護知識などを、お互いの家族や、デイサービスのスタッフと共有すること、またいろいろと相談できる”ことを目的とされているとのことでした。
母がデイサービスに行っている時、どんなことをしているのか、どんな様子だったのかと言うのは、連絡帳で、それなりにわかってはいたのですが、実際に室内に入ったことはないため、デイサービス内で、母と時間を共有できること、また、日ごろお世話になっているスタッフの皆さんに会えること、同じ悩みをもっているご家族と会えることなども、とても興味がありました。
家族会は定期的に行われますが、初めての家族会に参加した時は、まるで子供の授業参観に行くような気分で出かけました。
授業参観と言えば、私が子供の頃、母は、忙しい時間を調整して必ず来てくれました。当時、和服が多かった母は、授業参観に和服で来ることもあったのです。着物が似合う母が、私の自慢でした。
この時の母と、家族会に参加する私は、おなじような気持ちだったのかもしれません。
スタッフに私を自慢する母
デイサービスの室内に入ると、たくさんの机が並べられていて、習字や塗り絵が壁一面に貼りだしてありました。また、利用者の方が作られた雑貨なども陳列してありました。幼稚園や小学校の教室を思い出す雰囲気です。家族会が始まる前、利用者の方は、すでに席につかれていて、そのご家族が、隣に座っていらっしゃいました。
母は、私を見つけると、「ここにおいで!」と言っているように、大きく手を振ったのです。私が、母のとなりに座ると、近くにいらしたスタッフの方に「私の一人しかいない娘」と自慢していました。
これも、私が子供の頃、着物が似合う母を自慢に思っていたことと同じです。
そして、家族会が始まりました。家族会が始まって、スタッフ一人一人から自己紹介があり、連絡帳に書かれているスタッフ名とも顔が一致して、この後からは、スタッフの方とのスキンシップもより良くなり、遠慮も少なくなって、何でも相談できるようになりました。
小さなトラブルも笑いに
デイサービスでは、畑で野菜なども作られています。家族会でも、デイサービスで採れた野菜を使った食事をいただきました。グリンピースが入ったごはんもありました。
ここでトラブル発生です。
母が、まだ司会者が話しているのに「これおいしそうね」と言いながら箸をつけようとしたのです。私はあわててそれを止めました。
そんな私たちを見て、まわりから笑い声があがりました。母も笑っていました。
私を含め、他のご家族も、多少緊張気味でしたが、良いのか悪いのか、穏やかな雰囲気になったのです。
スタッフの優しい心遣いで、見たことがない母の顔
母たちが、デイサービスで過ごしている写真や動画を視聴する時間もありました。
母はまだ、行きだして日が浅かったので「あまり写ってないだろうな」と思っていたのですが、かなり多く、いろいろな場面に写っていました。おそらく、スタッフの方のお気遣いだと思います。
そこで見たのは、私があまり見たことがない母の顔でした。何の不安も心配もなく、楽しそうに笑い、幸せそうな顔をしていました。
支配人のことを思い出した私は「支配人はどの人?」と母に聞きました。「支配人はあそこにいる!」そう言って母が指さした先には、デイサービススタッフの優しそうな男性の姿がありました。
連絡帳で支配人の存在を伝えていた私は、近くにいらしたスタッフの方に、「あの方が支配人だそうですよ」と耳打ちしたところ、その話は、本人以外の全スタッフに届きました。そして、その方について教えていただきました。
その方は、作業療法士でリハビリ関係を中心に担当されているそうです。作業療法士は、“応用動作と社会適応のための能力回復を目的として、食事や料理、遊び、スポーツなどを通して、心と身体の両面から回復をサポートするお仕事“という説明を受けました。
お仕事の内容から見ても、母が支配人と思い込んだ気持ちがわかるような気がします。
その後、デイサービススタッフの皆さんが母と会話する時、その方のことを「支配人」と呼んでいると聞いて、私も「今日は支配人とリハビリしてきた?」と母に話しかけるようになりました。
無理に否定や訂正をせず、本人に話を合わせてあげることも、時には大事であるということをこの時、学んだのです。
デイサービスに来たからできた、陶芸教室・手芸教室の体験
デイサービスでは、陶芸教室や手芸教室などもあります。
連絡帳に「今日は、陶芸教室がありました」と書いてあった時、母に「陶芸教室で何を作ったの?」と聞いたことがあります。
本人は、何を作ったのかは忘れているようでしたが「おもしろかったよー」と笑いながら言いました。
家族会の時、陳列してある雑貨類の中から、そのとき母が作った作品をみつけたのです。それは、陶器で作ったサルでした。
とても良く出来ていて、母が一人で作ったとは決して思えませんが、母は「全部自分で作った!」と自慢します。そんな母を見て、母自身も、スタッフの方たちも、みんなで笑っていました。
(参考:笑うことは脳にも心身にもよく、認知機能低下せず心身が健康に)
陶芸教室や手芸教室など、デイサービスに来ることがなかったら、そんな機会は絶対なかったと思います。
もうデイサービスに行くのは難しいかもしれない
そんなふうに母がとても楽しみにしていたデイサービスですが、現在は、褥瘡もでき、心臓にも問題があって、寝たきりの状態になってしまいました。いつ退院できるか、目途もたっていません。
もしかしたら、もう二度とデイサービスには行けないかもしれません。
母が思いっきり笑える“母の居場所”と出会えたことに心から感謝しています。今は、何とか、もう一度デイサービスに通えるようになってほしいと願う日々です。