笑うことは脳にも心身にもよく、認知機能低下せず心身が健康に

笑うことは脳にも心身にもよく、認知機能低下せず心身が健康に

一般に子供は無邪気に笑うことが多いのですが、大人になると、仕事等に必要な笑顔を作る機会は増えても、純粋に笑うことは少なくなるかも知れません。しかし、年を重ねるほど、たくさん笑った方が脳にも心身にも良いようです。

認知機能の低下を予防することができるのに加え、心身を健康に保つことができるとされています。

笑うと脳は楽になり、活性化する

脳の専門家である加藤俊徳氏によると、怒っている時よりも笑っている時の方が、脳内の酸素の使用量が少ないそうです。笑うことは脳に負担がかからない楽な状態であり、笑ったあとは集中力や意欲が向上するとのことです。

脳の中で運動に関係する部分は体の各部位と連動していますが、顔面と連動している部分が一番面積が広いそうです。顔を動かして表情を変化させることは、一見すると運動とは思えないように感じますが、少なくとも脳にとっては、手足を動かすような運動よりも活発な運動であるようです。

顔の表情が変化することの中でも、笑うことは大きな変化になりますから、脳への刺激も大きくなると考えられるそうです。

笑いにも、思い出し笑いだったり、面白いものを見たり聞いたりして笑ったり、いろいろな種類があります。思い出し笑いなら脳の中の記憶に関係する部分を使うでしょうし、何かを見たり聞いたりする場合は視覚や聴覚の部分を使うことになります。

笑うことにより脳のいろいろな部分が互いに働き合って活性化し、心身の健康に繋がると言えるそうです。

 

笑いは人間らしい行動であり、笑わない人の認知機能は2倍以上低下

そもそも、笑うということは人間に特有の行動です。

人間は、他の動物とは異なる人間らしい脳の機能(高次脳機能)を持っていて、笑うことも高次脳機能のひとつと言えます。よく笑うということは、高次脳機能が正常に働いているということであり、認知症の予防にもつながると考えられているようです。

大阪大学大学院の大平哲也准教授は、そのような考え方をもとに、笑いと認知症予防についての研究を行いました。大平教授の研究では、大阪府内の地域住民の男女(平均年齢66歳)を対象に、落語を聞いてもらったり、笑いヨガを行ったり、イベントの紹介や笑いに関する映像・本の紹介を行ったりして、日常的に笑う状態を作りました。

研究を行った結果、ほとんど笑わない人と毎日のように笑っている人を比較すると、ほとんど笑わない人の認知機能は2倍以上低下することが明らかになりました(認知症になりやすい性格)。

質問紙も使って調査をしたところ、女性の方が男性よりも声を出して笑う頻度が多いものの、男女とも、年代が上がるほと笑う頻度は少なくなるという結果も得られたそうです。

 

笑うことで免疫細胞(ナチュラルキラー細胞)が活性化して健康に

脳の一部に間脳と呼ばれる部分があり、免疫機能をつかさどっています。免疫機能とは、ウイルス感染や悪性化等で体内の細胞が異常な状態になったとき、攻撃して異常な細胞を排除しようとする働きのことです。

ナチュラルキラー(NK)細胞と呼ばれる細胞は、免疫機能において特に重要な働きをします。笑うことで間脳が刺激を受けて、神経ペプチドという情報伝達物質が多く作られるそうですが、神経ペプチドは血管やリンパ管の中を通って全身に流れて行き、ナチュラルキラー細胞を活性化させるとされています。

実は、健康な人であっても毎日3,000~5,000個ものがん細胞が発生すると言われていて、ナチュラルキラー細胞ががん細胞を攻撃して消していることが明らかになっています。笑うことでナチュラルキラー細胞が活性化し、がんや感染症にかからずに健康でいられるというしくみです。

 

笑いは認知症の予防になり、モルヒネの数倍の鎮痛作用

  • 脳の働きが活性化することで海馬が大きくなり、記憶力が向上して認知症の予防ができるそうです。
  • 脳波ではα波が多く見られるようになって、心身がリラックスした状態になるとのことです。
  • 笑っている時の呼吸は腹式呼吸や深呼吸と同様のもので、体内への酸素の供給量が増えて血行が良くなるため、新陳代謝が盛んになるようです
  • 自律神経には体を緊張させる交感神経と、リラックスさせる副交感神経がありますが、両者のバランスが良ければ心身は健康な状態でいられます。人間は、起きて活動している間は交感神経が優位ですが、笑うことで副交感神経が優位になり、両者の切り替えが生じることでバランスが保たれるとのことです。
  • 笑うと血圧が上昇し、心拍数も増えて呼吸が活発になるため、カロリーを多く消費することになります。
  • 笑うとお腹が痛くなるのは腹筋を使っているからであるため、腹筋の他にも横隔膜や顔の筋肉も鍛えることができるようです。
  • 脳の神経伝達物質であるエンドルフィンが分泌されるため、幸福感を抱くことができたり気分が高揚したりします。モルヒネの数倍の鎮痛作用もあるとされています。

日頃、何気なく笑っているつもりでも、笑うことは心身にこれだけ大きく作用し、健康の維持に役に立っているわけです。

 

笑いのある日常生活で認知症を予防

体にいいから笑わなくてはと思っても、何もないのに笑うことは難しいものです。テレビや映画を見たり落語を聞いたりして笑うことはできますが、やはり心底笑えるのは、日常生活の中で周囲の人と楽しみや喜びを共有することであるかもしれません。

先にお話しした研究が行われたのは大阪ですが、大阪には「笑いの文化」があります。喜劇や漫才、落語等の芸能が盛んであり、日々の暮らしの中にも「笑いを取る」ことが織り込まれていたりするようです。

大阪の人に認知症が少ないかどうかというデータはまだないようですが、他府県の人よりは多く笑っているかもしれません。

大阪は江戸時代からずっと商人の町として栄えてきましたが、日常的に人と人との交渉が重要であったため、笑いの文化が発達したのではないかと考える研究者もいるようです。商売というものは厳しい競争でもありますから、交渉を円滑に進めるためには厳しさを和らげる方法が必要であったのかもしれません。言わば潤滑油のような役割として、笑いがあったと言えるかもしれません。

現代の忙しい社会の中で、人間関係をはじめストレスの原因は多くありますが、笑いのある日常生活を送ることで心身を健康に保ち、認知症も予防できれば何よりではないでしょうか。

 

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