「無届け介護ハウス」という施設が増えているのを御存知でしょうか。
介護を必要とする高齢者が増えているにもかかわらず、施設は常に不足している現状の中で生まれた「無届け介護ハウス」。この施設が急増している背景や実態などから、介護制度の問題点が浮かび上がってきます。
無届け介護ハウスとは?
「無届け介護ハウス」というのは、行政に老人ホームとしての届け出を行わずに運営されている施設のことです。
有料老人ホームの平均よりも格安で利用できる施設が多いため、主に所得が低く身寄りがない高齢者の受け皿となり、全国で急増しています。2014年10月の時点で、全国の無届け介護ハウスは911施設あり、前年の2.3倍になっています。
高齢者にとっては危険な施設?
行政に届け出をしないということは、一体どういうことなのでしょうか。
今、老人ホームとして行政に届け出をするには、部屋の広さ・廊下の幅など様々な基準をクリアする必要があります。全ての「無届け介護ハウス」がそうではないのですが、リスクを伴う施設があることも事実です。
2009年に起きた、群馬県渋川市の「無届け介護ハウス」での火災は、入居者16名中10名の犠牲者を出しました。老人ホームの基準を満たさない部屋、廊下、消火設備、さらに職員不足など多くの問題点が大きく取り上げられました。
また、例えば施設内で集団感染が起きた場合、届け出をしている施設は保健所に報告し、指導を受ける必要があります。「無届け介護ハウス」は報告の義務がないため、感染が食い止められずまん延してしまう危険があります。
このように行政としては「無届け介護ハウス」の実態を把握するのが難しく、閉鎖的な場所となってしまう恐れがあるのです。
なぜ「無届け介護ハウス」が増えるのか
現在、主に都心部などでは財源不足などの理由から、特別養護老人ホームなどの施設の建設が限定されてしまっています。しかし介護を必要とする高齢者は増える一方です。その中で、金銭的にも余裕がなく身寄りもない高齢者は、行き場がなくなってしまい「無届け介護ハウス」を頼らざるを得ないのです。
さらに行政さえも、多くの入所待ちを抱えている状況から、取り締まるどころか無届けを黙認し、頼っているのが現状です。そのような需要があるところに、ビジネスとして広がっていくのは当然なのかもしれません。
「無届け介護ハウス」が自治体を苦しめる?
無届け介護ハウス」を運営するための収入となるのは、利用者の施設利用料だけではありません。その収入の多くを占めるのは介護報酬です。
旭川市では、この介護費用を抑えるために公的な施設の建設を制限してきたのですが、「無届け介護ハウス」が急増したことによって、結局市の介護費用が増えてしまう事態となりました。
さらに、自治体の負担はそれだけではありません。介護保険制度の上では、高齢者が他の自治体の施設に引っ越した場合は、元々住んでいた自治体が介護報酬を負担することになっています。しかし「無届け介護ハウス」の場合はこの制度が適用されないので、高齢者の住所にかかわらず、介護報酬は施設のある自治体が負担することになってしまいます。結果として、「無届け介護ハウス」が増えれば増える程、自治体の負担は膨れ上がっていくのです。
高齢者のこれからのために
「無届けハウス」は利用者にとって危険を伴うリスクがあり、自治体の財源を苦しめています。では、「無届けハウス」を規制すれば解決するのでしょうか。
これからも増えるであろう「需要」がある以上、規制することに意味があるとは考えにくいです。もっと根本的に、今の介護制度を見直す時期になっているのではないでしょうか。
身寄りがなく低所得であるために、介護が必要になったら今までの住まいに住み続けられなくなり、施設に依存するしかないというのは、介護の度合いを重くするだけです。
施設や病院に依存しない状況を作ることができるようにするにはどうしたらよいか、私達ひとりひとりが自分のこととして考えていく必要があるのかもしれません。