イギリスのある大手スーパーマーケットには、認知症の人や高齢者、体が不自由な人達への「スローショッピング」というサービスがあるそうです。どんなサービスなのでしょうか。
スローショッピングで、認知症の人や高齢者もゆっくり買い物が楽しめる
このイギリスのスーパーマーケットでは、毎週火曜日の午後1時から午後3時までをスローショッピングの時間にしているそうで、来店客が多い週末や、平日の朝夕は避けて時間を設定しているようです。
この時間に来店した高齢者等をスタッフが店内へ迎え入れて、希望すれば買い物を手伝ってくれるそうです。長時間歩き続けたり立ったままでいたりするのは困難な人のために、店内には、買い物の途中でいつでも休憩できるように、椅子も設置されています。
お菓子や果物等の試食品も用意されていて、楽しんで買い物ができるような配慮もされていますし、何か困ったことがあれば、ヘルプデスクで相談できるそうです。
高齢者の中でも特に認知症の人にとって、買い物は負担になることが少なくありません。店内の売り場を自分で歩いて回り、必要な商品を探してレジまで運んで精算したあと、袋に商品を詰めて持ち帰るということは、健康で体力のある人には何でもないことですが、高齢者や認知症の人、体が不自由な人には困難であることが多いでしょう。
手が届きにくい場所に陳列している商品があれば、スタッフを探して呼ぶ必要がありますし、通路が狭い店では、車いすやショッピングカートが互いにぶつかりそうになることもあります。そんな時でも、スタッフがすぐそばで手助けしてくれたら安心です。
スローショッピングの時間なら、レジで並んでいる他の来店客に気兼ねをすることなく、財布の中の小銭を数えてゆっくり支払いをすることもできます。
買い物が好きなのに、困難で諦めなくてはならない認知症の人や高齢者
認知症の人や高齢者でも、店内でちょっとした手助けがあれば、自分で買い物に出かけることは可能であり、楽しむこともできるということではないでしょうか。
買い物で外出する機会を持つことで、運動量が増えて気分転換もできます。認知症の人であれば、少しでも進行を抑えることができるかもしれません。
イギリスでは約85万人の認知症の人がいると言われていますが、その80%の人は買い物が好きであると答えているそうです。しかし、25%の人が買い物が困難で諦めてしまっているそうです。
日本でも同じようなことが言えるかもしれません。
スーパーマーケットのスタッフの経験とアイデアにより導入
スローショッピングのサービスを行うスタッフは、認知症の人や高齢者等の手助けをするためのトレーニングを受けているそうですが、言葉やコミュニケーションに障害がある人にも対応可能とのことです。
スタッフの中に、自分の家族が認知症や病気で買い物に苦労した経験を持つ人がいて、彼らの経験をもとにスローショッピングが導入されたそうです。
認知症になったため、楽しみだったはずの買い物がストレスの原因になってしまい、外出が困難になった母親を持つ人や、ガンになっても自立して生活をしようとした父親の買い物に出かけることの苦労を見て、スローショッピングを発案したとのことです。
買い物に出かけることにより家の中で孤立することを防ぎ、日々の生活に張り合いを持たせることは、とても大切なことです。
オランダのスーパーマーケットで始まったサービス
2016年1月より、オランダの大手スーパーマーケットでは、介護サービスを行っている企業と共同で、「スーパー・ケア」というサービスを始めたそうです。
高齢者の来店客が困っていたり寂しそうな表情を見せたりしたら、レジを担当するスタッフが積極的に声をかけ、体調のすぐれない高齢者の場合は医師に連絡も行うというものです。小さな商店と違って、スーパーマーケットの来店客は誰とも言葉を交さずに買い物をすることが多いものです。
オランダでは、政府が福祉関係の予算を削減したために、一人暮らしの高齢者の施設入所もままならなくなっているため、このスーパーマーケットのように、地域社会への貢献のひとつとして、子供や高齢者、障害者の手助けを行うが出てきているそうです。
日本のスーパーマーケットでは、スタッフが認知症サポーターに
日本全国に店舗を持つ大手スーパー「イオン」では、スタッフが認知症への理解を深められるよう、認知症サポーター養成講座を受講することを促進しています。
認知症の来店客の場合、精算前の商品を食べてしまったり、店内で迷子になったり、レジでの支払いがうまくできなかったりすることがあるそうです。今後ますます認知症の人が増加していくことを考えて、全社をあげて対応方法を検討していくそうです。
また、首都圏を中心に店舗を展開するスーパーマーケット「クイーンズ伊勢丹」でも、営業時間内で一定の時間帯を決めて、高齢者専用のレジを設置したり、商品を袋詰めしてタクシー乗り場まで送り届ける等のサービスを行っているそうです。
このほかにも、買い物用のカートが重くて高齢者には負担になるため、アルミニウム製のカートに入れ替えているスーパーマーケットもあるようです。
ちょっとした工夫でも、高齢者や認知症の人の助けになる
大きな取り組みとまでいかなくても、個々のスーパーマーケットでちょっとした工夫が見られることもあります。
高齢者にもわかりやすいように、「デリカ」と書いてある売り場を「惣菜」、「フィッシュ」を「魚」のように書き換えたり、売り場や値札の字を読みやすい大きさに変えたりしているスーパーマーケットもありますし、購入した商品を宅配するサービスを行うスーパーマーケットもあるようです。
また、高齢者でもエスカレーターを安心して使えるよう低速にしたり、商品の陳列棚を低くし、段差でけがをしないよう階段を色分けしたスーパーマーケットもあるそうです。
高齢者の中でも特に認知症の人の目線に立って、安心して買い物が楽しめるようないろいろな工夫やサービスが導入されることに期待したいものです。