信託財産の管理や処分ができる家族信託

信託財産の管理や処分ができる家族信託

2,000年の施行以降、あまり普及していないと言われている成年後見制度に代わって、家族信託が注目されるようになりました。どんな制度なのか見ていきましょう。

委託者、受託者、受益者

「信託」とは、第三者を信頼して何かを委託するという意味がありますが、一般的に財産の管理や処分を任せることが多いようです。

委託する人を「委託者」、委託を受ける人を「受託者」、そして信託という行為により利益を得る人を「受益者」と言います。

街中で見掛ける信託銀行をはじめ多くの金融機関では、顧客の財産を受託して、投資信託、不動産信託、遺言信託等の商品を取り扱う信託業務を行っています。この場合は営業として行っていますから、金融機関は顧客から信託報酬を受け取っています。

一方、家族信託の場合は、銀行等の金融機関ではなく家族や親族が受託者になり、委託者が所有している不動産や委託者名義の預貯金等を管理し、必要に応じて処分等も行うことになります。

通常、委託者が受託者に信託報酬を支払うことはありません。

 

家族が認知症になった場合等に役に立つ家族信託

では、家族信託は具体的にどのような場面で活用できるのでしょうか。

現在、認知症になる人が増加の一途をたどっていますが、もしも家族の誰かが認知症になってしまったら、その介護費用の支払や介護サービス・施設入所等の契約手続きはどうすればいいのかという問題が発生します。

家族の誰かが費用を負担する場合もあるかもしれませんが、例えば、認知症の親に代わって子供が銀行の窓口へ出向いて、親名義の口座から出金しようとしても、名義人本人ではないという理由で断られてしまいます。

銀行のATMで出金すれば良さそうなものですが、窓口で本人確認を受けて手続きをしなければ出金できない預貯金もあります。

口座の名義人が認知症であることを知ると、口座から出金できないようロックをかけてしまう金融機関もあるようです。

認知症に限らず、病気が原因で意思・判断能力が低下しても、家族信託の契約さえ結んでおけば、家族の誰かが受託者となって、委託者に代わって資産管理や手続き等を問題なく行えますし、相続税対策の生前贈与も可能になるとのことです。

 

家族信託を契約する方法

家族信託を利用するには、契約書や公正証書が必要となり、次の3つの方法が考えられます。

  1. 委託者と受託者が契約書を作成して締結する方法
    所定の体裁を整えて必要事項を漏れなく記載する必要があるので、難易度は高いと言えるようです。
  2. 委託者の遺言による方法
    民法で定められた形式が必要です。公正証書遺言が確実であるとされています。委託者の死亡時に信託が成立します。
  3. 委託者兼受託者が信託宣言を行う方法
    例えば、委託者である親が受託者も兼ねていて、子供に遺す資産を信託財産として他の資産と分離し、管理は親が行うような場合にとる方法です。信託宣言には公正証書が必要です。

公正証書を作成する費用や、司法書士費用・登録免許税(信託財産に不動産がある場合)、信託監督人(受託者を監督する人)を置く場合は報酬が必要となります。

上記1.の場合は費用はかかりませんが、契約内容の複雑さのために弁護士や司法書士に手続きを依頼することが一般的であるようです。弁護士や司法書士に依頼すれば、報酬が必要です。

 

契約前に確認が必要なこと

家族信託の契約を行う前には、こと細かく確認しておく事柄があるようです。

  • 信託財産は何であるか(預貯金や不動産、その他の財産)。
  • 受託者を誰にするか。
  • 家族信託の目的は何か(事業を行っている人が後継者に引き継ぎたい場合や、認知症になった場合のことを考えて準備しておく等、目的を明確にします)。
  • 家族信託を開始する日や、委託者の死亡後のこと。

 

家族信託のメリット

家族信託は委託者の判断能力がある状態でも利用が可能で、資産の管理や運用状況も見届けることができます。

成年後見制度において司法書士や弁護士等が後見を行う場合のような、高い報酬の負担もありません。高齢の委託者が振込詐欺等に遭うリスクも減ります

万一、委託者が指定した受託者が亡くなった場合のために、次の受託者を指定しておくこともできます。

また、委託者が会社の経営者で株式を保有しているような場合、株式の評価が下がったタイミングで後継者に譲って税金の負担を少なくする方法もあるようです。

家族信託には「倒産隔離機能」という機能があり、委託者や受託者が債務を多額に負って返済を迫られるような場合でも、信託財産は差押えできないことになっているので、他者の手に渡らず守ることができます。

相続対策のひとつとしてのメリットもあります。

例えば、遺言書で指定可能なのは委託者が亡くなった時(一次相続)のことだけですが、家族信託であれば、その次の相続(二次相続:夫の死後、妻が亡くなった場合等)についても指定することができるそうです。

 

家族信託のデメリット

受託者を誰に指定するかで揉めることがあるようです。

委託者が存命中に、身内で争いが起きることもないとは言えないそうです。受託者の人選が良くないと、信託財産の管理・運用に支障が出て良くない結果を招くこともありますが、防止策として信託監督人を決めておく方法もあります。

受詫者は委託者から財産をもらったことにはなりませんが、名義が受詫者になるので、税務上は財産をもらったことになり、みなし相続財産として課税対象となります。受託者の税金の負担についても考慮が必要であるようです。

また、受託者には委託者の身上監護権がないため、施設に入所するような場合に、委託者に代わって契約手続き等をすることができません

 

家族信託と成年後見制度の比較

家族信託

  • 受託者は、委託者の意思で選ぶことができる
  • 信託財産の管理や処分のみで、法律行為はできない
  • 受益者のため、契約内容により財産の処分も可能。
  • 委託者が死亡しても、遺言による家族信託契約が可能。また、死亡しても信託は継続することを契約に盛り込めば、委託者の死後の相続等がスムーズに行える。
  • 信託監督人を置き、受託者を監督することもできる。
  • 財産の内容や金額、監督人の有無等により費用は異なる。

成年後見制度

  • 後見人は家庭裁判所が選任する。
  • 財産管理だけでなく、法律行為や身上監護もできる
  • 財産は家庭裁判所の監督下に置かれ、処分は不可能で、被後見人のための支出のみ可能。資産運用や生前贈与は不可能。
  • 被後見人が死亡したら、後見は終了する。
  • 必ず、家庭裁判所または監督人が後見人の監督を行う。
  • 後見の種類や、後見を受ける人の精神状態鑑定の要否、親族が後見人に選任されるかどうか等により、費用は異なる。

見方によっては、家族信託とは相続の方法を予め考えておくことでもあるようですから、相続人全員で話し合いをしておくことも必要になるでしょう。

後見人の負担があまりにも大きく、柔軟な対応が難しい成年後見制度の弱点を補う部分もあると言えます。

家族信託の方が使いやすい点もありますが、成年後見制度でなければできないこともあります。

いずれにしても、誰にでも認知症になる可能性がありますから、利用できる制度について早めに検討しておくことがお勧めです。